「大人の発達障害」で障害年金はもらえる?
この記事の最終更新日 2023年11月9日 文責: 社会保険労務士 大平一路
目次
1. 大人の発達障害とは
大人になるまで気付かない理由
2. 発達障害の症状
ADHD(注意欠陥・多動性障害)
ASD(自閉スペクトラム症)
LD(学習障害)
3. 大人の発達障害で障害年金はもらえる?
障害年金を受給するための3要件
4. 働きながらの受給は可能?
障害年金を受給していることを会社に知られる?
5. 大人の発達障害で障害年金を受給するための注意点
「知的障害を伴った発達障害」の初診日の考え方
病歴・就労状況等申立書の書き方
働きながら申請する場合
一人暮らしをしている場合
6. まとめ
最近、「大人の発達障害」という言葉がさまざまなメディアで取り上げられるようになり、広く知られるようになりました。
実際に、社会に出てから発達障害と診断され、仕事が続かないことや、人間関係で悩まれている方からの相談は年々増加しています。
今回は、大人の発達障害とはどのようなものなのか、大人の発達障害で障害年金はもらえるのか、について解説していきます。
1.大人の発達障害とは
発達障害とは、生まれつきの脳の特性です。特定のことには優れた能力を発揮する一方で、ある分野は極端に苦手、といった特徴がみられます。
大人の発達障害は、成人してから突然発症するものではありません。大人になるまで発達障害に気付かず、大人になってから診断を受けたり、自覚したりするケースを指します。
大人になるまで気付かない理由
障害の特性が強く発現している場合、幼少期の頃に発達障害であることが分かり、療育や治療支援を受けることができます。しかし先天的なその特性については個人差があります。症状や特性が軽度の場合は、本人の性格 や個性として、見逃されてしまうことが多くあります。
大学生や社会人になり、より高度で複雑なコミュニケーションが要求されるようになると、困難を抱える場面が出てきて、そこで初めて発達障害と診断されるのです。
2.発達障害の症状
大人の発達障害の中には、大きく分けて3つの種類があります。
これは発達障害をきっちり3つの種類に分けるものではなく、人によっては複数の種類をあわせ持つ場合もあります。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)
ADHDとは不注意・多動性・衝動性の3つの症状を主症状とする発達障害です。期日に遅れる、物をよく失くす、ケアレスミスが多い、などの「不注意症状」や、落ち着きがなくじっとしていられない、思ったことをそのまま口に出してしまうなどの「多動性・衝動性症状」が特徴です。
ADHDの特性は小児期から成人期まで続くことが多いですが、大人になるにつれて多動性は落ち着く傾向があります。一方で、不注意や衝動性の特性は、大人になっても現れやすいといわれています。
子どものころは症状が目立たずADHDと気づかなかったけれど、成人後、職場でミスを繰り返すなど、日常生活や社会生活でさまざまな支障が出てくることによって、ADHDに気づくこともあります。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASD(自閉スペクトラム症)は、以前、自閉症・アスペルガー症候群・広汎性発達障害などと呼ばれていた疾患の総称です。
学校や職場、家庭など人と接する場面で、特定の物事に強いこだわりを見せたり、社会適応性やコミュニケーション能力の欠如が認められる発達障害です。
具体的な症状として、親密なつきあいが苦手、冗談やたとえ話がわからず言葉を文字通り解釈する、会話が一方的である、急な予定変更に混乱する、融通がきかない、などが言われています。
LD(学習障害)
LD(学習障害)とは、知的発達の遅れや視覚・聴覚機能の問題がないにもかかわらず、「読む」「書く」「計算・推論する」など特定の領域が極端に苦手である発達障害です。小学生になって国語や算数を学び始めたタイミングで発症して周囲に気づかれることが多いです。
主に3つのタイプがあり、読字障害(ディスレクシア)・書字障害(ディスグラフィア)・算数障害(ディスカリキュリア)に分類されます。それぞれ1つのみを発症する事もあれば、併発することもあります。
また、発達障害は知的障害を併発していたり、二次障害としてうつ病などの精神疾患を患う場合があります。
3.大人の発達障害で障害年金はもらえる?
大人の発達障害によって仕事が続かず、安定的に収入を得ることが難しい場合があります。このような場合、是非ご検討いただきたいのが、障害年金です。
「大人の発達障害での障害年金受給は難しい」と思われている方もいらっしゃいますが、いくつかの受給要件を満たせば、障害年金を受給することができます。障害年金を受給することができるのであれば、経済的な不安を少しでも解消することができるのではないでしょうか。
それでは、障害年金を受給するためには、どのような要件を満たす必要があるのかお伝えしていきたいと思います。
障害年金を受給するための3要件
①初診日要件
国民年金、厚生年金、共済年金へ加入していた期間中に、その障害の原因となった病気やケガを医師や歯科医師に診察してもらっていることが必要です。
原則として、この診察を初めて受けた日を「初診日」といいます。
この「初診日」がいつであるかによって、障害年金がもらえるかどうか、もらえるとしたらいくらもらえるのか、が決まります。よって初診日は大変重要な日となります。
②保険料納付要件
初診日の前日に、その初診日のある月の、前々月までの期間の3分の2以上が、次のいずれかの条件に当てはまっている必要があります。
・保険料を納めた期間(会社員や公務員の配偶者だった期間も含む)
・保険料を免除されていた期間
・学生納付特例又は若年者納付猶予の対象期間
簡単にいうと、初診日までの被保険者であった期間のうち、3分の1を超える期間の保険料が「未納」でなければ大丈夫です。
実際に保険料を納めていた期間だけでなく、保険料が免除されていた期間も、納めていたものとして扱われます。
上記の要件には当てはまらなくても、令和8年3月31日までに初診日がある場合は、初診日の前日に、その前々月までの1年間に保険料の未納がなければ要件を満たすことができます。
③障害認定日要件
障害年金を受けられるかどうかは、障害認定日(初診日から1年6か月が経過した日)に一定以上の障害状態にあるかどうかで判断されます。
この障害認定日に一定の障害状態にあると認められると、その翌月から年金が支給されます。これを、障害認定日請求と呼び、もし請求が遅れても最大5年遡って支給されます。
障害状態につきましては、発達障害の場合、下記のようなイメージとなります。
【3級】
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの。
※3級は初診日に、厚生年金に加入している場合のみが対象です。
【2級】
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの。
【1級】
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの。
障害等級の判定は障害の重さのみではなく、就労状況や生活の実態についても総合的に考慮して判定されます。
4.働きながらの受給は可能?
大人の発達障害で悩まれている方の中には、自分の特性に合った職場で働きたいと思われる方もいらっしゃると思います。そのような方が一番不安に考えられることは、働きながら障害年金を受給することができるのかどうか、ということではないでしょうか。結論として、働きながらでも障害年金を受給できる可能性はあります。
しかし、実際の申請においては、就労の有無が非常に重要な判定要素となるのは事実です。発達障害やその他精神疾患の場合、審査基準において、障害の程度を表せる数値がありません。そのため、日常生活能力や就労状況(労働能力)で総合的に判定されるのです。
障害年金における「労働能力」とは、健常者の方と同じ労働環境下で、同様の仕事ができる能力をいいます。
職場において、できる仕事が限られている、残業の免除、短時間勤務にしてもらっている、手助けしてもらいながら仕事をしているなど、特別な配慮がなされている場合、完全に労働能力がある状態とはいえない可能性があります。
また、障害者雇用での就労や、社会復帰施設、就労支援施設、社会福祉法人での簡易な軽労働の場合も同様に、「労働能力がある」とはいえないと判断される可能性があります。その仕事の内容・配慮の程度・雇用形態・就労状況などによって、障害年金を受給できることはあるのです。
障害年金を受給していることを会社に知られる?
「障害年金をもらっていることって会社に知られる?」というご質問をよくいただきます。ご心配される方は多いと思いますが、障害年金を受給しているかどうかについては、受給者ご本人から会社へ申告しない限り、知られることはありませんのでご安心ください。
障害年金は非課税かつ社会保険料に影響しないため、年末調整の際に申告する必要や、年金事務所から会社へ通知されることはありません。マイナンバーを使って会社が情報を取得することもできません。
ただし、健康保険の傷病手当金を請求する場合、申請書に障害年金の受給有無を記入する欄がありますので、会社経由でこの手続きを行うと知られることになります。
5.大人の発達障害で障害年金を受給するための注意点
大人の発達障害で障害年金を受給するためには、いくつか注意点があります。一つずつ見ていきましょう。
「知的障害を伴った発達障害」の初診日の考え方
発達障害の初診日は、知的障害を伴っているかどうかでいつになるかが異なります。知的障害を伴っている発達障害の初診日は「生まれた日」が初診日となり、障害基礎年金が支給される場合があります。
知的障害を伴わない発達障害の初診日は原則として「初めて受診した日」です。初診日において、厚生年金に加入していれば、障害厚生年金が支給されます。
初診日とは、原則として、初めて病院を受診した日となりますが、知的障害については、例外的に生まれた日になります。知的障害を伴う発達障害の場合も原則として同様の扱いとなります。成人後、厚生年金加入中に初めて受診し、「知的障害を伴った発達障害」と診断されたとしても、原則として生まれた日が初診日となりますので、ご注意ください。
病歴・就労状況等申立書の書き方
「病歴・就労状況等申立書」とは、発病から初めて病院を受診するまでの経過、その後の受診状況、日常生活や就労状況などについて記入する書類です。医師が記入する診断書とは異なり、申請者本人が記入します。
大人の発達障害の場合は、出生日から現在までの状況を記載する必要があります。保育園や幼稚園、学校で困ったことや、先生に指摘されたことなど、具体的なエピソードがあれば記載すると良いでしょう。
働きながら申請する場合
働きながら申請する場合、就労の実態を診断書などの申請書類に反映させることが大切です。実態がきちんと反映された診断書を作成するために、雇用形態、仕事内容や会社から受けている配慮、帰宅後および休日の体調など、ご自身の状態を正確に医師に伝えることが重要です。
実際は、無理をして働いている状況や、帰宅後にはどっと疲れが出て何もできない、などの状態にあったとしても、その状態をうまく医師に伝えることができていなければ、診断書に反映されることはありません。実際の状態と解離した内容の診断書にならないよう、日ごろから医師とコミュニケーションをとり、ご自身の就労状況を伝えておきましょう。
一人暮らしをしている場合
発達障害やその他精神疾患の場合、就労状況と同じく、生活状況も障害年金の審査において重要な判断要素になっているため、一人暮らしをしていることは審査に大きな影響を与えます。
障害年金の審査は書類審査のみになるため、「一人暮らしをしている=自立ができている」と評価されてしまう可能性があります。
一人暮らしをされている方の中には、さまざまな理由でやむを得ず一人暮らしをしており、部屋が整理できずゴミ屋敷になっている、家事ができず栄養失調になっている、など実態は自立しているとは言えないような方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、一人暮らしではあるが、日常的に家族の援助や福祉サービスを受けて生活が成り立っているというケースもあると思います。
一人暮らしで障害年金を申請する場合は、必ず「一人暮らしである理由」を申請書類に記載しましょう。(例えば、母親と二人暮らしだったが母親が死亡した、など)
また、援助を受けている場合は、受けている援助の内容を記載するようにしましょう。援助がない場合も、援助がないことで、いかに生活が成り立っていないかを、記載する必要はあります。
6.まとめ
大人の発達障害で、障害年金を受給することは可能です。大人の発達障害で障害年金を申請する際には、日常生活や就労状況にどの程度支障があるかが重要になります。特に、診断書の内容は重要な判定要素となります。そのため医師にご自身の状況をしっかり伝えて診断書を作成してもらう必要があります。
また、病歴・就労状況等申立書もご自身の状況に即し、診断書と相違のない内容で記載する必要があります。
このように障害年金の申請においては、注意すべきことが多いことや、制度自体が複雑なため、「自分には難しそう」と感じるかもしれません。ご自身で障害年金の準備が難しいときには、公的年金制度のプロである社会保険労務士に相談してみてはいかがでしょうか。
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